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宇都宮地方裁判所 平成4年(わ)108号 判決 1993年2月09日

主文

被告人を懲役一二年に処する。

未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。

押収してあるけん銃一丁(平成四年押第四〇号の2の1)、実包一二発(同号の2の2及び2の3並びに同号の3)及び空薬きよう三個(同号の2の4ないし2の6)を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人は、愛知県津島市において出生し、名古屋市内の高校を卒業後、職を転々とし、無為徒食の生活を送つていた平成二年五月ころ、中学時代の先輩から右翼活動に誘われて上京し、東京都豊島区《番地略》丙川ビル五〇四号に事務所を置く政治結社甲野会に入会し、以後同事務所に寄宿しながら事務所当番等をするようになつた。甲野会は、Aを会長とし、皇国日本の再建、社会の不義不正を断つ、日本民族の平和と繁栄などを綱領とする右翼団体であるが、街宣車などによる街宣活動は一切しないで、機関紙「丁原」を発行し、国の機関や企業などに対する抗議行動を行つていた。また、その構成員が第一相互銀行にダンプカーで突入したり、自由民主党本部へ日本刀を持つて乱入するなどの事件を起こしており、さらに、前記丙川ビル五〇四号に同じく事務所を置く政治結社乙山会(会長B)の構成員も、群馬県高崎市内の衆議院議員中曽根康弘選挙事務所にけん銃を発砲するという事件を起こしていた。そして、被告人は、以後Aに連れられて国の機関や雑誌出版社等への抗議行動に赴いたり、機関紙講読依頼のための企業訪問などをするうち、甲野会やAが日本民族のために活動をしていると理解するとともに、Aの人柄に心酔するようになつていつた。

ところで、被告人は、衆議院議員・自由民主党副総裁であつた金丸信(以下「金丸」ともいう。)らが平成二年九月に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を訪問した際、戦後四五年間の謝罪と償いを内容とする共同宣言に至つたことを土下座外交であると考えたり、あるいは金丸が国政を私物化しているなどと考えて、同人に対し強い反発心を抱いていたが、同三年一一月、他の右翼団体が開催した金丸を糾弾する集会にAと共に参加し、会場で「金丸死ね」「金丸を殺せ」などと書かれたプラカードを見たり、「金丸を倒さなければならない。」などという演説を聞いて、金丸はこの世に必要のない政治家であるとの思いを強くするようになり、さらには、金丸の政治活動に対するA会長の批判的な見方も影響して、次第に、金丸を倒すことは日本民族にとつて有益でこそあれ損失はない、他の右翼は口で言つても誰も実行していない、自分が金丸を狙撃すれば男が上がり、甲野会やA会長が高く評価され、自分も同会長から評価してもらえる、金丸を狙撃し、同人を殺害するもやむなしなどと考えるに至り、同四年三月初めころにはその意思を固め、その方法として、けん銃を使用すること、相手に接近しやすい集会の場で狙うこと、都内では警察に顔を知られているから都外で実行することなどを決め、金丸の行動を新聞記事等により確認し始めた。

被告人は、同月一五日、新聞の朝刊で、金丸が山岡賢次参議院議員応援のため同月二〇日栃木県入りすることを知り、この機会に金丸をけん銃で狙撃しようと考え、そのころから連日、甲野会事務所において、かねて入手していたけん銃を取り出し、空撃ちによりけん銃発射の練習をする一方、同月一八日、山岡賢次事務所に電話し、金丸が出席する講演会の開催日時・場所を確認した上、足利市へ赴き、講演会場である同市民会館大ホールやその周辺の下見をし、その帰り、会場へ入場する際不審がられないようにするため、理髪店へ行つてパンチパーマの頭髪を伸ばしてもらい、同日夜には、A方へ赴き、同人と裸で並んで背中の入れ墨の写真を撮るなどした。

被告人は、右講演会が行われる同月二〇日正午前ころ、三八口径回転弾倉式五連発のけん銃一丁と実包一五発をセカンドバッグに入れて持ち、甲野会事務所を出て電車で足利市へ帯かい、同日午後三時過ぎころJR足利駅に到着し、その後足利市民会館北西側駐車場前の喫茶店に立ち寄り、同店のトイレで、けん銃に実包五発を装填してセカンドバッグに戻し、残り一〇発を背広のポケットに入れ、同店を出て同市民会館へ行つた。被告人は、同日午後四時ころ、足利市民会館大ホールに入り、前から三列目までは記者席及び指定席になつていたため、正面の演壇に向かつて左側のブロックの前から四列目、右側の通路から三番目で演壇中央の演台からおよそ九メートル離れた席に着席したが、開演前に右隣の人と席を替わり、右側通路から二番目の席に座つて開演を待つた。

講演会は、午後五時ころ開演となり、演壇上に並んだ多数の来賓や講師の紹介、来賓の挨拶が行われた後、同二五分ころから金丸信の講演が始まつた。被告人は、金丸の講演が始まると、ひざの上に置いたセカンドバッグのチャックを開け、右手を中に差し込んでけん銃の銃把を握り、発砲のチャンスをうかがうも、前方の演壇下や通路に報道関係者やカメラマン等が多数いたため、なかなか発砲のチャンスを見つけることができなかつたが、金丸の講演が終了して壇上にいた山岡賢次が金丸に歩み寄つた時、右側通路にいたカメラマンが移動したのを見て、席から立ち上がり、通路に出て演台下へ駆け寄り、走りながらセカンドバッグからけん銃を取り出して両手で構え、四、五メートルほどの距離から演台の上に見える金丸の頭部付近に狙いをつけた。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  衆議院議員・自由民主党副総裁金丸信(当時七七歳)をけん銃で狙撃して殺害しようと企て、平成四年三月二〇日午後五時五五分ころ、栃木県足利市有楽町八三七番地足利市民会館大ホールにおいて、殺意をもつて、講演を終えて演壇上にいた同人に対し、所携の三八口径回転弾倉式けん銃(平成四年押第四〇号の2の1)で弾丸三発(同号の4ないし6の弾丸ないし金属塊は右発射後のもの)を連続して発射したが、同人に命中せず、警備中の警察官らに取り押さえられたため、その目的を遂げなかつた、

第二  法定の除外事由がないのに、前記日時、場所において、前記けん銃一丁及び火薬類であるけん銃用実包一五発(同号の2の2及び2の3並びに同号の3は、いずれも右実包が試射ないし鑑定により薬きようと弾頭に分解されたもの。同号の4ないし6は、右実包発射後の弾丸ないし金属塊)を所持した

ものである。

(証拠の標目)《略》

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、本件発砲以前の段階では被告人には傷害の故意しかなく、発砲の時点においても未必的殺意しかなかつたと主張し、被告人も、公判廷において、自分としては金丸を政界から引退させればよく、同人の手や足をけん銃で撃つてけがをさせれば高齢の金丸は引退するであろうと考えていたのであり、計画段階では金丸を殺すつもりはなかつた、しかし、発砲する段階では無我夢中であり金丸のどこを狙つて撃つたといえないため、場合によつては金丸に銃弾が命中して同人が死亡するかもしれないと思つていたかといわれればそう認めざるをえないなどと、弁護人の主張に沿う供述をしている。

二  そこで検討するに、前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

すなわち、被告人は、金丸の北朝鮮外交を初めとする政治姿勢に強い憤りを持つていたが、平成三年一一月に開催された金丸糾弾集会に出たり、甲野会会長Aの考えに触れたりする中で、金丸はこの世に必要のない政治家であるとの思いを強め、金丸を倒すことは日本民族にとつて有益でこそあれ損失はない、他の右翼は口で言つても誰も実行していないなどと考え、翌四年三月初めころには、金丸を狙撃しようと決意したこと、そこで、東京都外の相手に接近しやすい集会の場で金丸を狙うことなどを決め、新聞記事等により金丸の行動を確認し始めたこと、その後、山岡賢次主催の講演会に金丸が出席するのを新聞で知り、この機会に金丸を狙撃しようと考え、犯行の二日前である同月一八日、山岡の事務所に電話して講演会場等を確認し、足利市内にまで赴いて現場の下見をし、その帰りなどに、会場で不審がられないようにする目的で二回にわたり理髪店に行つてパンチパーマの頭髪を伸ばし、また、A方へ赴き、同人と裸で並んで背中の入れ墨の写真を撮るなどしたこと、被告人が犯行に使用したのは、かねてから所持していた三八口径の回転弾倉式五連発けん銃であること、右けん銃の扱いに慣れるため、前記講演会の開催を知つた同月一五日から犯行前日の一九日にかけて、毎晩一〇分程度空撃ちしてけん銃発射の練習をしたこと、当日の犯行前に会場の外の喫茶店で五発の実包を右けん銃の弾倉に装填したこと、会場内では演台から直線距離で約九メートル離れた一般席の最前列に座り、金丸の演説が終わるころに席を立つて同人のいる演台下に駆け寄り、右斜め横に移動しながら四、五メートル程の距離から、右手でけん銃の銃把を握り、これに添えて固定して両手でけん銃を構え、瞬時に連続してけん銃を三発発射したが、警察官等に取り押さえられたため残りの二発は発射できなかつたこと、被告人が当初座つていた位置やけん銃を発射した位置からは、金丸の胸より下の部分は演台にさえぎられて見ることができず、同人の胸から上が見えるだけであり、特に金丸が黒つぽい上着を着ており、背景が白い幕であつたこともあつて、金丸の頭部分が白つぽく浮き上がるように見えたこと、被告人の発射した弾丸は、一発目が金丸の頭上約六二センチメートルを通過し、二発目が演台の上部を貫通して金丸の足下付近に落下し、三発目が金丸の頭上約三一センチメートルを通過したことの各事実が認められる。

三  右に認定した事実に基づき、殺意の有無について検討する。

まず、発砲段階について、被告人は、発砲時は夢中であり金丸の身体のどこを狙つたということはないと公判廷で述べ、弁護人は右供述を前提として被告人には未必の殺意しかなかつたと主張している。しかし、金丸の演説が始まつてから犯行に及ぶまでの間、被告人には自分の席から金丸の様子を観察するだけの時間があり、当然金丸の胸から下の部分は演台に隠れ、胸から上の部分のみが演台上に現れていることを認識していたはずである。そして、金丸の身体に銃弾を当てるつもり(この点は被告人も公判廷で自認しているところである。)でけん銃を発射し、実際にも被告人が発射した三発の銃弾が金丸の頭上近くを通過したり、演台の上部に命中するなどしていることにも照らすと、被告人としては、演台の上に見えた金丸の胸から上の部分、特に白つぽく浮かび上がつてよく見える頭部付近を狙つてけん銃を発射したものと認められる。

そうすると、被告人は、殺傷力の極めて高いけん銃に五発の弾丸を装填して会場へ入り、一般席の最前列に座つて機会をうかがつた上、金丸のいる演台下に駆け寄り、四、五メートルの至近距離から、両手でけん銃を構え、金丸の頭部付近を狙つて移動しながら瞬時にけん銃を三発連続発射していずれも金丸の上半身の直近に銃弾を通過させ、さらに連続して発射しようとするところを取り押えられたということになるのであつて、このような一連の経過に照らすと、被告人としては、発砲段階において金丸を殺害する確定的意思があつたというほかない。

そこで、さらに本件計画段階における被告人の殺意の有無について検討するに、右に認定したとおり、被告人が発砲段階において金丸に対する確定的殺意を有していたこと、前記二で認定した経過のとおり、被告人は、本件当日、計画段階での予定に従つた行動をとつており、計画時に比べ予想外の事態が発生したことをうかがわせる事情は存在しないことに照らすと、被告人は計画段階においても確定的殺意を有していたことが推認されるところである。これに加えて、被告人は、金丸に対する殺意がなかつたと言いながら、計画の当初から殺傷力の極めて高いけん銃を躊躇なく選択し、より金丸の生命に対する危険性の低い凶器の使用を考えた様子がないこと、被告人は、集会において金丸を狙撃する計画であり、したがつて、警備等の隙を突いて一瞬のうちに狙撃を行わなければならないと予想される状況であつたから、銃弾を金丸の手や足に正確に命中させることは常識的にみても極めて困難であつたこと、また、手と胸部や腹部等の間に距離がせいぜい二、三〇センチメートル程度しかなく、しかも演台に駆け寄つて発砲せざるをえないことなどを考えると、けん銃を持つた手元のわずかなずれにより金丸の身体の枢要部に銃弾が命中し、死亡させてしまう高度な危険性があつたこと(なお、被告人が本当に金丸にけがを負わせるだけのつもりで、その手足を狙う計画であつたのならば、むしろ、身体の枢要部への命中の危険性を避け、演台越しに金丸の足に向けて発射するのがより現実的であつたと思われるが、被告人は、そうした行動を一切とつていない。)、こうした状況にもかかわらず、被告人は、手足を狙うつもりだつたと言いながら、空撃ちの練習をしたほか、特に右部位を狙うための練習などした形跡はないのであつて、他の点においては周到に犯行を準備しながら、こと金丸の生命の安全に関わる点については、準備段階においても全くといつてよいほど配慮した形跡がないことが明らかである。これらの事情に、金丸を政界から排除するという本件犯行の動機からしても、金丸を殺害するという方法が最も直接的であり、これに反して、手足にけがをさせれば高齢の金丸は引退するであろうと考えたとの法廷供述は、被告人が現実にとつた行動ともそぐわず、いかにもこじつけ的であり、納得のいくものではないことをも併せ考慮すると、被告人としては犯行の計画段階から金丸に対する確定的殺意を有していたと認められる。金丸に対する確定的殺意を認めた捜査段階における自白は、以上認定したところと合致し、その内容は十分に信用できるのであり、前記客観的状況によつてうかがわれるところとあいまつて、被告人の計画段階からの確定的殺意を認定するに十分である。

以上のとおり、金丸の手足を狙うつもりであつたという被告人の供述は、不合理で現実離れしており、殺意がなかつたとの点についても、右に検討したところに照らして到底信用できない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、刑法二〇三条、一九九条に、判示第二の所為中けん銃所持の点は、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に、けん銃用実包所持の点は、火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当するところ、判示第二の各所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断することとし、判示第一の罪につき有期懲役刑を、判示第二の罪につき懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により、重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入し、押収してあるけん銃一丁(平成四年押第四〇号の2の1)は判示銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪行為を組成した物、実包一二発(同号の2の2及び2の3並びに同号の3)は判示火薬類取締法違反の犯罪行為をそれぞれ組成した物及び空薬きよう三個(同号の2の4ないし2の6)は右犯罪行為を組成した物の一部であつて、いずれも被告人以外の者に属しないから、刑法一九条一項一号、二項本文を適用して被告人から没収することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、衆議院議員・自由民主党副総裁であつた金丸信の対北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)外交などに対して反発していた被告人が、所属していた右翼団体会長の金丸に対する見方や他の右翼団体が開催していた金丸糾弾集会に触発されて、金丸がこの世に必要のない政治家であるとの思いをつのらせ、金丸の狙撃を考えるようになり、殺意をもつてけん銃三発を発射しテロ行為に及んだという事案である。

もとより、被告人が金丸の政治姿勢に対して批判を持つことは自由であるが、言論の自由や選挙制度が保障された民主主義社会においては、この批判は言論等の合法的方法によつて展開されるべきことが鉄則であつて、本件のように、自己の政治上の主義主張に反する政治家を暴力で抹殺しようとするなどという行為は、自由であるべき言論や政治活動を問答無用のごとく暴力によつて封じ込めようとするものであり、民主主義の政治体制を根幹から破壊するもので断じて許されないというべきである。被告人は、右翼活動を始めて未だ二年にも満たない状況であつたのに、金丸が日本に不要な政治家であると決め付け、自らの政治意思実現のための合法的な方法を探る粘り強い努力をなんらすることもなく、本件犯行を思いつき計画的に実行に移したのであつて、その経緯は誠に短絡的で民主主義の理念や法を無視する態度が顕著であり、動機において酌量すべき余地は全くない。

また、本件犯行の態様をみるに、被告人は、犯行のかなり前から金丸の狙撃を企て、わざわざ顔を知られていない地方における集会を犯行の場として選んだり、事前にパンチパーマを落として怪しまれないようにするなど、警備の目をかいくぐるための方策を講じ、現場の下見をしたり、けん銃の空撃ちの練習をするなどして周到な準備を重ね、確実に狙撃できるようにした上、三〇〇〇名を超える多数の聴衆が参加した集会において、多くの報道関係者がテレビカメラ等を据えつけて取材し、演壇上では国会議員や地方政界の関係者等多数が見守る中、金丸を狙つてけん銃三発を連続して発射しこれを殺害しようとしたものであつて、計画的かつ大胆不敵な犯行であり、しかも、当時政権党の副総裁という重要な地位にあつた金丸がその政治活動を理由としてテロを加えられ、死亡するようなことがあれば、わが国の政治全体に与える影響を計り知れず、政治家の自由な政治活動に及ぼす悪影響にも多大なものがあつたというべきである。銃弾はいずれも金丸の身体の直近をかすめ、幸いにして命中は免れたものの、被告人としては更に四発目、五発目の弾丸を発射しようとしていたのであり、被告人の手もとがわずかでもずれたり、あるいは警察官等による被告人の取り押さえがあとすこしでも遅れたりすれば、金丸に銃弾が命中する危険性が極めて高く、そればかりか金丸と握手をしていた山岡賢次に命中するおそれさえあつたと認められるのであつて、本件は、人の生命の尊厳を無視した非常に危険性の高い凶悪な犯行であつたというほかない。

本件犯行は、被害者はもとより、講演会関係者や一般聴衆に対しても多大の衝撃・恐怖を与えたものであり、被害者らの講演会関係者、犯行を目の当たりにした一般聴衆らは、いずれも強く被告人の厳罰を求めている。のみならず、本件は、けん銃を使用した政権党の有力国会議員に対するテロ行為として、新聞、テレビ等を通じて繰返し全国に報道され、全国民にも大きな衝撃を与えたものである。ところが、被告人は、金丸を襲つた点について反省することはないなどと供述し、また、けん銃や実包の入手先を秘匿し、入手の時期、入手した理由についても納得のゆく説明をしておらず、反省の態度はほとんど認められないのであつて、今後も本件と同様の行動に走ることが懸念される。

以上検討してきた事情によれば、本件犯行は悪質で、被告人の刑事責任は極めて重いというほかない。そして、近時、銃器を使用した殺傷等の凶悪事犯が全国的に多発し、市民の平穏な生活が脅かされているところ、A会長をはじめとする右翼関係者の中には、被告人の本件犯行に対し、これを好意的に評価する者さえいるのであつて、このような現状に照らすと、本件犯行に触発されて、今後更に同種の犯行が敢行されるおそれもないとはいえず、このようなテロ行為が二度と繰り返されてはならないとの一般予防的見地からも、被告人の責任は厳しく問われるべきである。

そうすると、幸いにして金丸に銃弾が当たらずにすんだこと、被告人が若年であつて前科等もなく、今後暴力団的方法による政治意思実現の考えを変える余地もあると供述していることなど被告人に有利な、ないしは斟酌すべき事情を最大限に考慮しても、主文掲記の刑を科することはやむを得ないところである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 久保真人 裁判官 樋口 直 裁判官 小林宏司)

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